電気鍼治療はmiRNA-233-3pを介してLIF/STAT3経路を調整し、卵巣調節刺激ラットの子宮内膜着床能を改善する

論文解説:

電気鍼治療はmiRNA-233-3pを介してLIF/STAT3経路を調整し、卵巣調節刺激ラットの子宮内膜着床能を改善する(原著論文)

 

“Electroacupuncture improves endometrial receptivity through miRNA-223-3p-mediated regulation of leukemia inhibitory factor / signal transducer and activator of transcription 3 signaling pathway”

 

Fang You et al. Bioengineered. 2022;13(4):10298-10312.

概要:

調節卵巣刺激(COH)は子宮内膜着床能を低下させる。そのメカニズムを調査するため、COHラットに電気鍼治療を行い、着床能や各種生体分子に現れる影響を評価した。電気鍼治療を行ったラットでは子宮内膜において①着床能の改善、②細胞接着分子の発現低下、③LIF/STAT3経路の活性化、④miR-233-3pの発現低下、が認められた。また、抗miR-233-3pアンタゴマーの投与でも上記①~④の効果が認められ、鍼治療との併用でより高い効果が得られた。電気鍼治療による子宮内膜着床能の改善には、miRNA-233-3pの抑制が関与している可能性がある。

 

背景:

調節卵巣刺激(COH)による子宮内膜着床能の低下に対して、鍼治療の有効性が示されている。着床能を高める要素として、子宮内膜におけるピノポードの多さや細胞接着分子の発現の低さが挙げられる。LIF/STAT3経路はこれらの要素を調節しており、胚の発育、胚の着床、妊娠の維持といった生殖活動の成立にも関わっている。

LIF/STAT3経路を上流から抑制するのが、miRNA-233-3pである。miRNA(マイクロRNA)とは21~25塩基程度の一本鎖RNAであり、特定の遺伝子の発現を抑制する効果を持つ。既報告では、妊娠マウスの子宮内膜においてmiR-233-3pが低発現かつLIF mRNAが高発現で、非妊娠マウスでは逆であり、miR-233-3pの過剰発現はピノポードを減少させ着床能を低下させることが示されている。

本研究では、電気鍼治療、miRNA-233-3p、LIF/STAT3経路が互いに与える影響を調査した。

 

方法:

雌のSDラットを対照群、COH群、低周波電気鍼治療群(LF-EA群)、高周波電気鍼治療群(HF-EA群)、抗miRNA群、LF-EA+抗miRNA群、HF-EA+抗miRNA群に無作為に分け、各群はそれぞれ20匹とした。介入後にラットを妊娠させ、半数は妊娠4日目に、もう半数は妊娠9日目に解剖して子宮内膜の状態を評価した。

対照群以外には性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)と妊娠雌馬血清ゴナドトロピン(PMSG)を投与し、COHモデルラットを作製した。

LF-EA/HF-EAを含む群では、7日の電気鍼と1日の休止を1クールとして4クールの治療を行った。他の群は把持と固定のみを行った。経穴は実験動物の鍼灸アトラスにおけるCV4(関元)とST36(足三里)を選択した。0.30×13mmのステンレス製針を用い、深さは3~5mmとした。LF-EA群は連続波、2Hz, 1mAで、HF-EA群は連続波, 50Hz, 1mAで、20分電気刺激を加えた。

抗miRNAを含む群では、妊娠2日後に開腹して子宮に抗miR-233-3pアンタゴマーを投与した。

結果:

COH群では対照群と比較して、miR-223-3pの発現が高く、ピノポードが減少し、細胞接着分子(E-カドヘリン、β-カテニン、クローディン1)の発現が高く、LIF/STAT3経路が抑制され、着床数が減少していた。抗miRNA群、LF-EA群、HF-EA群ではモデル群と真逆の結果が得られ、着床数が増加した。また、LF-EA+抗miRNA群、HF-EA+抗miRNA群では、1つの治療のみを行った群よりも高い効果が得られた。HF-EAはどの項目でもLF-EAより高い効果を示し、抗miRNAを併用した場合でも同様であった。

また、子宮内膜の組織片を用いた検討で、miRNA-233-3p mimicsを投与するとLIF mRNA の発現が低下したが、LIF mRNAの3′ 非翻訳領域を追加すると発現は正常化した。

 

結論:

miRNA-233-3pはLIF mRNAの3′ 非翻訳領域に結合する能力を持ち、LIF/STAT3経路を抑制し、着床能を低下させた。一方、電気鍼治療と抗miR-233-3pアンタゴマーはmiR-233-3pの発現を抑制し、LIF/STAT3を活性化し、低下した着床能を改善した。その効果は、低周波よりも高周波の電気鍼治療で優れていた。